◆藤田裕喜議員 では、議長の許可をいただきましたので、通告の順に従い一般質問をいたします。
今回は、子ども施策をめぐる課題を大きなテーマといたしまして、特に「子ども条例」の制定と本年4月から施行されましたこども基本法への対応について、お伺いしていきたいと思います。
まず(1)子どもたちを取り巻く現状について、データを参照しながら最初に確認をしておきたいと思います。
今回特に着目するのは、子供たちの自己肯定感です。
自己肯定感とは、高垣忠一郎立命館大学名誉教授によれば、「自分が自分であって大丈夫」という感覚で、自分が自分であることを支える内なるお守りのようなもので、存在レベルで肯定されること、自分が安心してそこにいられる、自分の存在そのものが承認され、受け入れられているという安心感を十分に味わうことができる、こうした感覚をいいます。
高垣名誉教授は、自分で自分の人生を選んでいくためには、それを支える心が育っていなければならず、自分の頭で考え、自分の心で感じたことに依拠して自分の人生を選んでいくことができるためには、「自分が自分であって大丈夫」という自己肯定感がなくてはならないと指摘しています。
では、日本の子供たちの自己肯定感は高いのでしょうか、低いのでしょうか。実は、日本の子供たちの自己肯定感は諸外国に比べて著しく低いということが最近の様々な調査で明らかになっています。例として内閣府による子供・若者白書の平成26年度版(2014年度版)における調査の結果を御紹介します。「自分自身に満足している」という設問に対し、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答があった割合は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスにおいては、軒並み8割を超えており、韓国でも7割を超えているところ、日本では45%にとどまっています。特に年齢・階級別に見ると、10代の後半から顕著にその割合が低下しております。また、「自分には長所があると感じている」という設問に対しては、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答があった割合は、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスでもいずれも9割に達するレベルで、韓国でも75%ですが、日本では68%にとどまっています。日本の若者たちは諸外国と比べて自分を肯定的に捉え、自分自身に満足している割合が低いばかりか、自分には長所があると思っている割合も低いということが示されています。
直近の調査だけでなく、一昔前の調査でも同様な傾向を見ることができます。一般財団法人日本児童教育振興財団の日本青少年研究所が青少年の意識や行動についての調査研究を行っております。2002年(平成14年)に公表された「中学生の生活と意識に関する調査」においては、日本と中国の中学生の自己評価に関する意識の比較を見ることができます。1990年(平成2年)にも同じ調査を実施しており、経年での変化の状況も分かります。
例えば、「自分に大体満足している」という設問に対し、日本の中学生が「よくあてはまる」「ややあてはまる」と答えた割合は、1990年(平成2年)には47.2%であったのに対し、2002年(平成14年)では35.7%であり、大きく低下しております。一方、中国の中学生が「自分に大体満足している」という設問に対し、「よくあてはまる」「ややあてはまる」と答えた割合は、1990年(平成2年)には75%で、2002年(平成14年)では71%であり、日本の中学生よりも倍近く高い水準であることに加え、10年たっても大きな変化すら見られません。また、「自分はほかの人々に劣らず価値のある人間である」という設問に対して、日本の中学生が「よくあてはまる」「ややあてはまる」と答えた割合は、1990年(平成2年)には35.4%であったのに対し2002年(平成14年)では31.5でしたが、中国の中学生が「よくあてはまる」「ややあてはまる」と答えた割合は、1990年(平成2年)には74.3%で2002年(平成14年)では86.6%であり、その差はやはり倍以上の開きがあります。
それぞれの調査において調査の対象や規模、時期も異なっていますので単純に比較することはできませんが、しかし、どの調査の結果を見ても、日本の子供たちの自己肯定感が国際的にも高いとは言えない、むしろとても低いということは明らかであると言えます。しかもここ最近だけに見られる現象ではなく、既に十数年単位で以前より子供たちの自己肯定感が低いという状況にあることが分かります。そして、このような日本の子供たちの自己肯定感が低いことを示す調査結果は、実はほかにもたくさんあり、枚挙にいとまがないと言っても過言ではない状況です。
自己肯定感が低く積極的な行動もできない、意欲も低く、将来への希望も持てない日本の子供たちですが、しかしながら学習到達度の調査においては大変高い水準の結果を出しています。経済協力開発機構(OECD)の実施する学習到達度調査PISA、ピザとして知られている調査の結果を見ると、調査が始まった2002年(平成12年)以降は、いずれの分野においても日本の子供たちは、少なくとも平均以上、年によってはトップレベルの結果を残してきています。
この学習到達度調査PISAは、義務教育修了段階の15歳、日本では高校1年生を対象として、読解力、数学、科学の知識と技能をどの程度実生活の中で直面する課題に対して活用できるかをはかる調査です。2000年から3年ごとに、これまでに9回実施されております。直近の調査は2022年(令和4年)に実施されていますが、国際比較を含めて調査の結果を確認できるのは2018年(平成30年)の調査結果が最新です。
例えば、2009年(平成21年)の調査の結果では、読解力は34カ国中5位、数学的リテラシーは34カ国中4位、科学的リテラシーは34カ国中2位という結果で、どの分野においても大変高い水準にあります。また2018年(平成30)年の調査の結果では、読解力は36カ国中11位、数学的リテラシーは37カ国中1位、科学的リテラシーは37カ国中2位という状況で、読解力は下がっていますが、他の2分野はやはり非常に高いレベルにあります。
主催者であるOECDの分析によれば、数学的リテラシー及び科学的リテラシーは引き続き世界トップレベルであり、調査開始以降長期的に見ても安定的に世界トップレベルを維持しているということです。確かに数学的リテラシーについては6位より下に下がったことはないですし、科学的リテラシーについても3位より下がったことはないという大変優秀な成績です。読解力については、OECD平均よりも高得点であるが、長期的には上がってもいないし下がってもいない。変化がないという状況にあるということでした。
ここで少し状況をまとめてみたいと思います。ここまでに紹介した自己肯定感に関する調査の結果、また学習到達度の調査の結果の双方を見て分かることは、日本の子供たちは自己肯定感が低く、自分のことに価値があるとか長所があるとは思っておらず、したがって学習意欲も高くないものの、しかし学習の到達度は高く、勉強はよくできるし、実際に結果も出せるということです。これは非常にパラドキシカルな状況であると言えると思います。言われたこと、指示されたことはできる、結果にもつなげられるが、しかしそれは必ずしも自分が意欲的にやりたいと思ってやっているわけではないとまとめることができそうです。言い換えれば、まさにこれらの結果は、やる気はないけれども、結果は出せるというある種の優秀さをアイロニカルに物語っていると言うことができると思います。
ここで教育長にお伺いします。ここまで御紹介してきたような状況は、蒲郡市の子供たちにも当てはまると考えているでしょうか。教育委員会として子供たちの自己肯定感の低さや学力調査の結果について、どのような現状認識でいるでしょうか、お考えをお聞かせください。
○大須賀林副議長 教育長。
◎壁谷幹朗教育長 子供たち一人一人その状況は異なっており、そのまま当てはまるというものではありませんが、総じて平均を取れば、蒲郡市の児童生徒につきましても、自己肯定感、学力ともに全国平均に近い状況であるのではないかと認識をしております。
自己肯定感につきましては、各学校で行事や総合的な学習などで達成感や成就感を味あわせながら、体験的な活動や異学年集団による縦割り活動に積極的に取り組むことで、自分自身を肯定的に捉え、将来について前向きに考えることができる児童生徒を育てています。また、コミュニティスクール及び地域学校協働活動の推進により地域の人と活動したり地域のために貢献したりすることで、児童生徒が役立つ喜びを感じ、地域や蒲郡市のために自分ができることを考える学習へとつなげております。
学力につきましても学習指導要領で重視されております主体的・対話的で深い学びの実現を目指し、自ら学ぶ意欲や思考力、判断力、表現力など、世界でも通用する新しい学力観の育成に取り組んでおります。
教育委員会としましては、引き続き児童会、生徒会活動をはじめ、各学級における係活動において、自分に任された役割を果たし、みんなから感謝される成功体験を積み重ねていくことで自己肯定感を高めていきたいと考えております。また、基礎・基本を大切にした、わかる、できる、たのしい授業に心がけることで確かな学力を育んでいきます。そして、地域の課題やまちづくりに目を向けた総合的な学習の充実を図るとともに、保護者や地域の方と連携して児童生徒の成長を支える体制づくりに取り組むことで、健全な蒲郡の子供たちを育てていきたいと考えております。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 東洋大学福祉社会デザイン学部の内田塔子准教授による「子どもの安心と救済に関する実態・意識調査」の結果によれば、子どもの自己肯定感を高めていくためには、学校の勉強に前向きに取り組めていること、クラブ活動や部活動、友達との遊びや活動に打ち込めていること、親や兄弟姉妹、祖父母など身近な人間と良好な関わりを持っている、友達との良好な関わりを持っていること、家の中でも、特に家族と一緒にくつろぐ部屋に安心していられること、学校の教室の居心地がよいこと、先生や親、保護者などの大人からの傷つき体験がないあるいは少ないこと、友達や先輩などからの傷つき体験がないあるいは少ないことが必要であることが分かっています。これらの内容を地域の中で子供に保障することが、子供の自己肯定感を高め、安心して充実した生活を実現することにつながると内田准教授は指摘します。
そのための手段として、子供を支援することはもちろん、子供を取り巻く環境を整え、子供に関わる大人たちも支援することが欠かせません。そして、そのための法的枠組みが必要であると考えることができます。その根拠となるのが「子どもの権利条約」です。そこで子どもの権利条約について、詳しく見ていきたいと思います。
子どもの権利条約は1989年に国連総会において採択されましたが、その淵源、そもそもの始まりは第一次世界大戦に遡ります。1924年、第一次世界大戦で戦場となり戦争の被害を受けた子供たちを緊急に救済するために、国際連盟が子どもの権利宣言、正式には「児童の権利に関するジュネーブ宣言」を採択しました。その前文においては、人類が子どもに対して最善のものを与えるべき義務を負うことが宣言されています。まさに子どもの権利の国際化の出発点ということができます。
その後、第二次世界大戦を経て国際連合が設立され、人権の世界各国の共通の基準として1948年に「世界人権宣言」が採択され、1959年には新たに「子どもの権利宣言」が採択されました。1966年には「国際人権規約」が採択され、1979年の国際児童年を経て、1989年、「子どもの権利条約」へとつながっていきます。この流れは、子供を取り巻く厳しい現実を教訓として深めてきた子どもの権利の国際化の到達点の1つであると言うことができます。
日本政府が子ども権利条約を批准したのは1994年でしたが、昨年、2022年になってようやく子どもの権利条約に基づく立法措置として「こども基本法」が制定されました。まさに約100年に及ぶ子どもの権利を確率する歴史の流れの中にこども基本法があるということができますし、子どもの権利条約もこども基本法も、こども家庭庁も、この子どもの権利をめぐる100年の歴史の延長線上にあると考えることができます。
子どもの権利条約は4つの一般原則を掲げています。その4つとは、第2条、子どもに対する差別の禁止、第3条、子どもに関わるあらゆる活動における最善の利益の確保、第6条、権利の出発点として生命への固有の権利及び生存・発達の権利、第12条、子どもの意見が聞かれ、尊重される権利です。子どもの最善の利益、The best interests of the childを指導原理として、子供を取り巻くあらゆる場において子どもの権利が考慮され、また実現されることが求められています。最も重要とされていることは、子供を権利の主体として位置づけ、本来持っている権利を保障し、子供の最善の利益を実現していくということです。子供が保護の対象、客体であるだけでなく、何よりもまず権利の主体であり、しかもその権利を子供自らが行使することができるという立場に立っています。この考え方を権利基盤型アプローチといいます。
権利基盤型アプローチとは、子供一人一人が個人として尊重され、生命、自由、幸福追求の権利を有することを前提とし、子供を人権の共有主体であると捉えた上で、完成した人間として扱っていくという考え方です。
権利基盤型アプローチに対置されるのが恩恵的アプローチですが、恩恵的アプローチに基づく政策は福祉ベースのアプローチで、国が子供に対して恩恵として与えるものにすぎないとする考え方です。東京大学大学院教育学研究科の浅井幸子教授は、この恩恵的アプローチの重要性、すなわち困難な状況に置かれた子供の保護と救済は重要で必要であると指摘しながらも、この側面だけが焦点化されるべきではないと述べています。恩恵的アプローチにおいては、常に子供を保護と救済を必要としている存在であるという前提で捉えており、子供の未熟さや脆弱さを焦点化し、子供には何が足りないか、何を欠いているかという欠損モデルで捉えてしまうことにつながります。この前提こそが問題であると指摘します。
恩恵的アプローチにおいても、権利基盤型アプローチにおいても、子供の最善の利益を最重要の考慮すべき事項としている点では共通していますが、子供を未熟で脆弱な存在として捉え、大人には子どもを保護し、教育し、援助するという役割を期待するのではなく、子供を権利の主体として捉え、一市民として、大人と共に、世界の意味と文化を構築する存在として位置づけるべきであると浅井教授は指摘します。
権利基盤型アプローチに立った政策とは、子供たちの置かれた環境や状況にかかわらず、権利を実現していく政策になることから、全ての子供に対して平等に実施されなければならない政策です。
子どもの権利条約は、権利基盤型アプローチの考え方を取っていますので、子供を権利の主体として位置づけた政策を実現していく必要があります。そして、こども基本法も子どもの権利条約にのっとっているため、こども基本法に基づいて展開される施策も、子供を権利の主体として位置づける視点が不可欠です。
ここで市長の掲げる子どもファーストの施策と子どもの権利条約についてお伺いします。
これまでの議会答弁においても、市の施策は、子どもの権利条約の理念と一致している。市の施策である子どもファーストは、子どもの権利条約の理念に一致しているというお話がございました。具体的にはどのような内容をもって理念が一致していると考えているか、お聞かせいただければと思います。
○大須賀林副議長 健康福祉部長。
◎宮瀬光博健康福祉部長 第2期蒲郡市子ども・子育て支援事業計画では、児童虐待や子供の貧困対策、子供の医療費助成、貧困家庭及び独り親家庭の学習支援の充実策も含まれており、放課後子ども総合プランも盛り込んでいますと過去において答弁をしております。計画で進めていくべき施策は恩恵的アプローチが主なものとなりますが、施策の中には権利基盤型アプローチも含まれていますので、その意味において理念が一致していると答弁したところでございます。
権利基盤型アプローチに関する事例としては、放課後子ども総合プランでは、地域子育て支援センター活動の充実を図り、自主サークルの育成や子育て支援に係る講演会や各種講座を開催することとしております。育児講座においては、例えば、親と子の関わり方として、親の考えを押しつけない育児、子供が何を望んでいるのか、何がしたいか尊重する育児についての講座も開催しております。また、プランの中には児童館の適切な管理と運営という項目があり、それに基づき、子供と関わりの深い児童館職員には、子供の居場所づくりに関する研修会の中で子どもの権利条約について触れ、条約の4原則について学んでいただいております。
権利基盤型アプローチをさらに充実していくためには、子供が意見を表明できるような環境づくりが必要ではないかと考えております。年齢層は高校生以上となりますが、蒲郡若者議会運営委員会が開催している蒲郡若者議会を先例として、今後の子供の意見表明の場を考えるための参考にしてまいりたいと思っています。
権利基盤型アプローチは恩恵的アプローチと比べますと形成するのに時間がかかるのかもしれませんが、根本的な問題解決策が得られるきっかけとなる方法と考えております。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 権利基盤型アプローチに立った施策とは、子どもの権利を前提として、子供自身の主体性を育むことにつながる施策です。直接的に子供の育ちを支えていくこと、子供が自分の価値や力に気づき、そして確信を持ち主体的に生きていくことを支援していくような施策とも言えます。今を生きる子供たちを支援し、子供たちの自己形成を後押ししエンパワーメントしていく施策であって、子供の自己肯定感の獲得に資する施策です。
具体的には、子供が参加する場があり、意見を表明できるというだけでなく、その意見が尊重されること、また、そのために子供自身が子どもの権利について学ぶ機会がある、学ぶ機会が保障されていることも必要です。これらがそろって初めて子ども施策が権利基盤型アプローチに基づいていると言うことができます。保護者への支援も必要ですが、やはり重要なのは、子供への直接的な支援です。その意味では、やはり子ども条例を制定して、制度的な根拠を持って権利基盤型アプローチに基づく施策を継続して実施していくことが必要であると私は考えます。御指摘のとおり、時間はかかるかもしれませんが、根本的な問題解決につながるきっかけが得られる方法であることは間違いありません。
そこで(2)「子ども条例」の制定についてですが、具体的に子ども条例にどのような内容を盛り込むべきか検討を進めていきたいと思います。子ども条例については、他自治体の事例や先例も多くありますので、参考にしながら、現状で実現できる最善の内容で制定することを考えていくべきであると思います。日本体育大学の半田勝久准教授は、国内で制定されている子ども条例を3つに分類しています。
1つは、子どもの権利保障を図る総合的な条例で、子どもの権利についての理念、家庭、学校、施設、地域など、子どもの生活の場での権利保障や責務、子どもの意見表明、参加支援、子どもの相談、救済の仕組みづくり、子ども計画の策定による子ども施策の推進、子どもの権利委員会設置等による検証システムについて規定し、総合的かつ計画的にまち全体で子ども問題などに対応し、子どもの自己実現を保障していこうとする性格を持っている条例です。神奈川県川崎市や岐阜県多治見市、北海道札幌市、愛知県豊田市において事例がございます。
もう一つは、子どもの権利を個別的な施策、制度により実現していく個別条例です。地域や子供の実情や行財政事情から総合的な施策を前提とした条例ではなく、個別の問題、課題、重点課題に対応していくことを目的としています。具体的には、子供の相談や権利の救済のための条例、子供の虐待防止や安全を図るための条例などが実例としております。兵庫県川西市や岐阜県岐南町の条例は、いずれもオンブズパーソンに関する個別条例ですが、非常によい例であると言えます。
もう一つは、子ども施策を推進するための原則条例で、子ども施策を推進するための原則、理念などを定め、条例制定後にその具体化を促していくものや、基本となる理念や施策を示し、その推進計画の策定や推進体制の在り方などを定めている条例です。大阪府箕面市や東京都世田谷区、東京都調布市などで事例がございます。
蒲郡市の場合は、子供や子育てに関する条例や規則は確かに制定されておりますが、その内容は施設の設置や管理運営に関する内容のもの、事務手続や費用負担、助成や補助を定めるもの、法律の施行細則などにとどまっており、権利基盤型アプローチに基づいた内容のもの、また、子供や子育てに関する理念や考え方を明示したものは1つもありません。したがって、一から条例づくりに取り組んでいくことになりますので、当然総合的な条例の選定を検討していく必要があると思います。
また、子供に関する条例という観点からは、既に各都道府県において、いわゆる青少年健全育成条例が定められています。愛知県においても1961年(昭和36年)に愛知県青少年保護育成条例が制定されています。愛知県の条例では、18歳未満を青少年として定議し、青少年の健全な育成を阻害するおそれのある行為を防止し、もって青少年を保護し、その健全な育成に寄与することを目的としています。この目的からも明らかなように、本条例は規制を主体とした内容で、青少年の深夜外出の規制や、いわゆる有害図書類の規制、有害玩具類の規制、また有害公告物の規制、深夜営業施設への入場禁止などが罰則つきで定められています。
この青少年保護育成条例は確かに子供を対象とした条例ですが、その内容は、子どもの権利条約や子どもの権利に立脚したものではないことは明らかで、青少年条例があるから子ども条例は不要であるということには到底なりません。東京経済大学現代法学部の野村武司教授も、現行の青少年条例は法構造の面で子どもの権利条例にはなり得ない。場合によっては、処罰を伴う規制については、子どもの権利の観点から再検討を加える必要がある。子どもの権利条約の実施普及に際して条例を構想する場合、子どもの権利を総合的に保障するための新たな条例が必要となると指摘しています。
子ども条例はこれまでの青少年健全育成条例とは異なり、権利基盤型アプローチに基づいて子どもの権利を実現し、子どものための政策を総合的に推進していくために、自治体としての理念や具体的な手段を定めた条例です。愛知県内においても、名古屋市や豊田市だけでなく、岩倉市や日進市、また幸田町でも子ども条例が制定されています。全国では150近い自治体で子ども条例が既に制定されております。
子ども条例の制定、実施による効果として、日本体育大学の半田勝久准教授は5つの点を挙げております。第1に、子ども条例の制定により、自治体の姿勢、理念が明確になり、子どもに関わる部門の庁内体制を再編したり、関係機関との情報共有、スムーズな連携、対応が可能になるなど、子ども施策推進体制が整備されたこと、第2に、子どもの参加、意見表明の促進、子どもの居場所、活動拠点の設置、子どもの相談、救済機関の新設や機能強化、子ども計画における子どもの権利施策の具現化といった条例に基づく具体的な事業の展開が実現したこと、第3に、子どもや住民への子どもの権利学習の推進、子どもの権利に関する意識啓発、理解が促進されたこと、第4に、定期的に子どもの意識・実態調査を実施することにより、横断的・縦断的調査による情報の蓄積ができ、それらを子ども施策に反映することが可能になったこと、第5に、市民、NPO、起業後の共同事業の展開や地域ぐるみの子ども・子育て支援の機運の釀成につながったこと。
このような効果を現実に生じていることを踏まえると、子ども条例は、単に子どもの権利を実現し、子どものための施策を実現していくだけでなく、子どもの権利に根差した子どもに優しいまちづくりを進めていくための1つの手段になるということが分かります。
具体的な議論に入っていく前に1点、子どもの権利と義務に関する議論について補足をしておきたいと思います。
子どもの権利をめぐる議論においては、よくわがままを助長するのではないか、権利には義務が伴うといった主張が聞かれることがあります。山梨学院大学の荒牧重人教授は、子どもの権利に対応する義務は、国や自治体、保育士や教職員、親などによる子どもの権利を保障する義務であって、子どもの権利には子どもの義務が対応するのではなく、これを保障する義務が伴うと指摘しています。本日、私から提起する議論についても同様ですが、子どもの権利は法的な議論の俎上にある内容であって、道徳規範や道徳的な責任と混同して議論されるべき内容ではありません。子どもの権利は、日本も含め世界中の国々が批准している国際条約である子どもの権利条約において認められている権利であり、日本国憲法はもとより、子ども基本法においても認められている権利であることを十分に踏まえて議論を進めるべきであると私は考えます。道徳の議論と法的枠組の議論はあくまで別の問題であって、本日の議論は法的枠組みの議論です。子どもの権利に対応するのは、子どもを取り巻く大人たちが子どもの権利を保障する義務であって、子どもに対して義務が伴うという考え方は誤っているということを改めてここでも明らかにしておきたいと思います。大人たちが子どもに対して義務を負っているという考え方は、1924年の子どもの権利宣言以来、現在に至るまで連綿として受け継がれている最も基本的な理念です。子どもに対する義務ではなく、大人たちに対する義務があるということです。
それでは、具体的に個別の論点について、蒲郡市における現状を伺いながら議論を進めていきたいと思います。
まず、子どもの参加・意見表明についてです。
子どもの参加・子どもの意見表明は、子ども条例においても、恐らく最も重要な意義を持つ内容です。先ほど御説明したとおり、子どもの権利条約の12条において子どもの意見の尊重が定められており、重要な4つの一般原則のうちの1つとして捉えられているからです。ここでいう子どもの参加・子どもの意見表明とは、子どもたちの市政への参加・意見表明、行政への参加・意見表明です。権利基盤型アプローチに立てば、子どもたちにも当然に市民としての参加する権利、意見を表明する権利があると考えることができます。単に参加する、加わるということにとどまらず、当事者としての位置づけ、パートナーとしての位置づけの双方を含んでいると考えるべきです。
山梨学院大学の荒牧重人教授によれば、子ども参加にあたっての重要なポイントは、1、意見表明や参加に必要な情報が子どもに提供されること。特に情報公開と情報へのアクセス保障は必須条件であること。2、現存する多様な子どもの意見が反映されるよう、子ども世代の代表者が適切に選出されていること。3、参加の在り方、特に企画や運営の決定過程に子どもが直接参加し、その意見が反映されること。4、表明した意見等に理解や行政側がどのように対応したかについて知らされること。5、子どもが積極的に参加できるよう条件整備をすること。単に金銭に限らず、時間上、制度上の必要も工夫であることと述べています。
荒牧教授は、子ども参加を単なる手法・手段レベルで終わらせないためには、子ども自身が主体となって活用できる仕組みが必要であること、さらに子ども自身が意見を表明しやすい仕組みであるとともに、決定過程に何らかの形で関わることができる仕組みづくりが重要であると指摘しています。具体的には、子供の意見表明を仕組みとして保障するために、例えば、子ども委員会、子ども会議などの場を設け、子供が主体となるグループが議論を重ね熟議をして、子供の総意をもって意見表明がされるようにすることが求められます。また、そのためにも子供たちの自主的な活動や参加を支援する子ども参加ファシリテーターの存在も大変重要です。
そして、このような場で出された意見は、単に言いっ放し、言わせっ放しで終わるのではなく、施策に反映されるかどうか、実現されるかどうかにかかわらず、きちんとフィードバックされること、丁寧に説明されることが重要です。そうすることで、この一連のプロセスを通じて、子供たちが、大人たちが自分の意見にきちんと耳は傾けてくれた、自分の意見が市政に反映されたと感じることができます。そうして大人との信頼関係を再構築し、子供をエンパワーメントすることにつながり、子供たちの自己肯定感を育んでいくことにもつながっていきます。
そこでお伺いします。現状、市の施策において子供の意見を聞く機会や場があるでしょうか。その制度や仕組みは整えられているのか。また、これまでに実際子供の意見を聞いたことがあるか。どのような意見があったか。子供の意見が実際に施策に反映されたケースはあるかお伺いします。
具体的には、市の主催するまちづくりと公共施設の将来を考えるワークショップの中で、また、総合計画の策定や蒲郡市子ども・子育て支援事業計画の策定にあたって、あるいは新しく公園を設置する際にそれぞれ市民の意見を聞いていると思いますが、その中で子供たちの意見を聞く機会はあるでしょうか、子供たちから意見を聞いているでしょうか、お伺いします。
○大須賀林副議長 総務部長。
◎平野敦義総務部長 私からは、まちづくりと公共施設の将来を考えるワークショップについて、お答えをさせていただきます。
まちづくりと公共施設の将来を考えるワークショップにつきましては、18歳以上の方を対象としておりますが、ワークショップの中で若い世代の意見も聞きたいという話が出たため、直近に開催いたしました大塚地区と形原地区では、両地区の中学校に御協力をいただき、学校に出向いて生徒の皆さんから意見を伺っております。
大塚中学校では、様々な世代と交流がしたい、子育てしやすいまちにしたい、また一部の地区の生徒からは通学が遠いといった御意見があり、こうした結果をワークショップで示した上で御議論をいただき、地区個別計画の内容にも反映をしているところでございます。
形原地区につきましては、中学校で意見を伺ったほか、前半2回のワークショップに生徒さんもグループに入っていただき意見を聞きました。勉強する場所に困っておりファミレスに行っているといった、ほかの参加者が驚くような話も出ていました。ほかにも大塚と同様、多世代交流や子育て支援など様々な御意見をいただいており、こうした御意見も参考に、現在の地区個別計画案の検討を進めているところでございます。
以上です。
○大須賀林副議長 企画部長。
◎大森康弘企画部長 私のほうから総合計画について答弁させていただきたいと思います。
第五次蒲郡市総合計画の策定時におきましては、市内の中学2年生全員及び市内の高校に通う高校2年生全員にアンケートを実施いたしました。アンケート結果では「目指すべき将来像」としまして、「良好な住宅や店舗が立地し、道路や公園などが整備された暮らしやすい快適なまち」や「観光、レジャー施設が充実したまち」の選択が多く、自由記載としましては、「特に遊べる施設や買物や飲食ができるところなど、お店がもっと欲しい」という意見が多く見られました。これらの意見は総合計画の策定、特に産業に関わる分野において反映をさせていただきました。なお、この中高生のアンケートは定期的に実施予定でありまして、次回の実施は令和6年度となっております。このアンケートにつきましても、総合計画の進捗管理及び今後の事業策定の参考にさせていただく予定をしております。
以上です。
○大須賀林副議長 健康福祉部長。
◎宮瀬光博健康福祉部長 私のほうからは蒲郡市子ども・子育て支援事業計画について答弁をさせていただきます。
第2期蒲郡市子ども・子育て支援事業計画の策定にあたっては、就学前児童の保護者2,000人、小学生児童の保護者2,000人を対象にアンケートを実施し、PTA、父母の会、保育園、幼稚園などの子供に関係する団体には意見をお伺いしましたが、子供への意見聴取は行っておりません。第3期蒲郡市子ども・子育て支援事業計画を策定する際には、子供の意見についても幅広く聞いていくことを念頭に進めてまいりたいと考えております。
以上です。
○大須賀林副議長 都市開発部長。
◎嶋田丈裕都市開発部長 新しく公園を設置する際には、私のほうから答弁させていただきます。
主な公園の利用者になるであろうと思われる地域の方に御意見を伺いながら設計をしております。近年整備した公園で申し上げますと、アンケート調査を令和4年度に松前公園、令和2年度に新井形公園、平成29年度に水竹公園で行っております。また、ワークショップについては、平成29年度に水竹公園で実施しております。
アンケート調査では10代の方からもごく少数ながら回答をいただいておりますが、回答の大半は30代以上の方からとなっております。またワークショップは全員大人の方が参加されておりました。アンケート調査及びワークショップでは直接子供から意見を聞くというよりは、保護者の方から間接的に意見を伺うことで、公園設計を考える上での参考としております。
なお、令和3年度から公園長寿命化計画に基づき公園遊具の更新を実施しておりますが、複合遊具などの大型遊具を導入する際には、最寄りの保育園の園児の保護者または小学校の児童を対象としまして、市が用意した複数のプランから選択する形ではありますが、直接意見を聞くことを行っております。
以上でございます。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 それぞれの機会において様々な方法で子供や保護者の意見、関係者の意見を聞いていただき、また施策にも反映されているということが分かりました。特に先ほどの御答弁の中ですばらしい御意見の御紹介がありました。中学生が勉強する場所がないのでファミレスに行っているというお話です。確かに学校では早く帰れと言われるし、家では勉強する場所がないし、図書館は高校生ばかりだし、児童館や公民館にも勉強する場所がないのでファミレスしかないと中学生が考えるであろうことも、言われてみれば確かに想像できますが、しかしこれは、言われてみなければ気づかないような驚くべき話だなと思います。こうした意見が出ることが、まさに多様な人がまちづくりに参加することのメリットであると感じます。特にこれまで参加していなかって子供世代が参加することで、話の流れや方向性が一気に変わるような、そのような可能性すらある意見だと感じました。
子供の意見を聞くことが実際に事業の実施や計画の策定にとって有益であって、役に立つということがよく感じられる話だと思います。やはりこうした子供たちの意見を取り入れていく仕組みを市の施策のプロセスの中にきちんと制度としてつくって担保していく必要があると思います。現状は単発的に、または散発的に子供の意見を聞いて、また取り入れているという状況ですので、子供の意見を聞いたり聞かなかったりするのではなく、継続的に子供の意見を聞く場をつくっていく、聞き方もアンケートであったり、保護者を通じてであったり、ワークショップで直接聞いたりなど方法が一定していませんので、何らか基準を設けるなどしてルール化して定型化していく必要があると思います。もちろんアンケートなど間接的な方法ではなく、直接意見を伝えてもらえる場を設けることが一番です。
また施策に反映されたかどうかにかかわらず、自分の意見がどうなったのか説明を聞ける場、フィードバックをする機会は必ず必要ですので、その意味でも子供たちの意見を聞くという定例化した場を設けることが必要であると思います。子供自身が自分の意見を表明することでまちづくりに参加していく、子供の意見を取り入れていくことで子供にも優しいまちづくりを進めていく。そうすることで多くの人が住みやすいまちになるというだけでなく、このプロセスを通じて、子供たち自身が自分の意見を聞いてもらえる、まちづくりに参加できる、そういう感じてもらえるということが重要です。それがまさに権利基盤型アプローチに立った施策であり、子供たち自身の自己肯定感を育むことにもつながっていきます。また、蒲郡市は子供たちの意見も聞いてまちづくりを進めていくのだという姿勢、そういう価値観を表に出していくということもできます。
子供の参加については、市政への参加はもちろんですが、子ども条例を制定するプロセスにおいても欠かせません。現在、自治体の施策の策定や検討にあたって市民が参加していくということは、もはや当たり前のプロセスであると言っても過言ではないと感じます。それは時代の要請でもあると思います。
そして子ども条例の制定にあたっても同様で、条例制定のプロセスから市民が参加することはもちろん、子供自身が参加していくことが必要です。また、子供参加のために場を設けることで議論を重ね、子供の側からの意見や思い、願いを把握して聞き取る、取り入れるということもできます。実際に神奈川県川崎市や岐阜県多治見市、愛知県豊田市などにおける子ども条例の制定にあたっては、子供が参加して意見を表明し条例の制定に携わっています。特に神奈川県川崎市においては、市全体の子ども会議だけではなく、行政区における子ども会議、中学校区における子ども会議を設置して、三層構造にわたる子ども参加の仕組みをつくり上げています。
山梨学院大学の荒牧重人教授は、子供に優しいまちづくりを推進していくためには、行政、関係機関、市民、NPO等による連携が欠かせないと指摘した上で、子どもの権利保障に関わる施策の大部分は、議会や行政任せでは実現し得ず、とりわけ子供と間近に接している地域、自治体の市民、NPOの関わりや参加が不可欠であると述べています。特に行政と市民、NPOがそれぞれの役割を確認し合いながら、パートナーシップの下で子供に優しいまちづくりを進展させていくことが求められていると言えます。
日本体育大学の半田勝彦准教授は、条例の制定過程における子供を含む市民参加と関係する行政部署の横断的参加により、それぞれがまちの現状と課題を認識する中で、条例を自分たちのものとして受け止め、そこに思いや意見を反映させていくことができる。そうした過程が結果として全庁的な連携、協力体制を構築し、行政と市民との協働を促進するなど、制定後の効果的な実施につながっていくと指摘しております。
行政と市民、NPO、子供の協働によって条例を制定していくことは、まさに1つのまちづくりの重要なプロセスであることが分かります。審議過程を公開することはもちろん、制定過程から市民が参加することで、条例を実施していく段階での市民協働が促進され、条例の効果的な実施につながります。市民が条例を生かし、まちづくりの主体になることにもつながっていきます。蒲郡市においても、子供はもちろん、市民もNPOも参加して子ども条例をつくっていくべきであると思いますし、ぜひともほかの自治体の事例を参考にしていただきたいと思います。
次に、子どもの権利に関する学習についてです。
子供の参加・子供の意見表明を実現していくためにも、そもそも子供たち自身が子どもの権利について学び理解している必要があります。学校においては、既に人権教育や人権学習、権利学習の時間が設けられていると思います。まずはその現状についてお聞かせいただけますでしょう。また、子どもの権利について学ぶ機会は保障されているでしょうか、お伺いします。
○大須賀林副議長 教育長。
◎壁谷幹朗教育長 人権に関わる学習につきましては、各学校でそれぞれ毎年11月から12月に人権週間を設け、人権について考える機会を持っております。具体的には、人権に関する標語を考えたり、道徳や学級活動の時間に人権に関わる教材を取り上げて考えたりしています。その中で、子どもの権利についても確認をしています。また、毎年中学校で1校、人権擁護委員会から指定を受け一日人権擁護委員会が開かれており、いじめや差別、ヘイトスピーチなど、毎回社会問題をテーマに取り上げ、中学生が人権について考える機会を設けております。
今年度、12年ぶりに生徒指導提要が改訂をされ、児童生徒自身が自ら考え判断し、行動することの大切さが確認されました。それを受け、教育委員会としては児童生徒による主体的な校則見直し活動の実施を依頼しています。子供たちが自分たちの学校生活を見直し、教職員も含めたみんなで合意形成していく一連の活動も子どもの権利や人権を大切にした取組として考えております。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 喜多明人早稲田大学名誉教授は、学んだ知識を実生活の中で実践していくための学習の手段として、国連児童基金(ユニセフ)の教材を紹介しています。ユニセフの権利学習教材においては、子どもの権利について知ることを第1のステップとし、第2のステップとして反応すること、そして、第三のステップとして行動することを挙げています。
ポイントは、知ることと行動することをつなぐ反応することですが、ユニセフによれば、反応することとは、いろいろな見方、考え方があることを理解し、権利の問題の人間的な側面について感覚を鋭くし、共感する気持ちを育て、行動が取れるよう関心を高めていくことであると説明されています。人間的な側面についての感覚を鋭くして共感する気持ちを育てるという内的な衝動を起こす感性が重視されている。すなわち人権権利感覚ないし尊厳の感覚を磨いていくことが求められていると喜多名誉教授は指摘しています。私も大変重要な指摘だと思います。
子どもの権利学習に関するリソースは、ユニセフのインターネットのサイトでもたくさん公開されておりますし、いろいろな実践例もあると思いますので、ぜひ蒲郡市の人権学習、権利の学習においても参考にしていただきたいと思います。
続いては、子どもの権利に関する広報についてです。
子どもの権利条約に特異な規定として、42条には、条約の原則や規定を広く知らせること、広報することが定められています。あまたある国際条約の中でも、わざわざ本文中に条約について自国民に対して広報することを規定している条約は、管見の限りではこの子どもの権利条約をおいてほかにはありません。それほどまでに子どもの権利や子どもの権利条約について、大人だけでなく子供に対しても広く知らせることが重要であると考えられていることが分かります。子どもの権利や子どもの権利条約の存在を知らせなければ、子どもの権利を実現し、子どもの権利保障を進めていくことはできないと考えられているとも捉えることができると思います。
山梨学院大学の荒牧重人教授は、子どもの権利保障を進めるためには、子どもの権利保障に責任を負う国会、政府、裁判所等の関係機関、あるいは教師や福祉施設等の職員が条約の趣旨と規定を理解し実践していくことが不可欠であって、大人が条約の趣旨と規定を知り、子どもの権利について意識変革をし、権利保障の担い手とならなければならないと指摘しています。大人も子供も子どもの権利や子どもの権利条約について、知らされ、学び、意識改革していくことが求められています。
実際に子ども条例の多くは子どもの権利や条例についての広報普及を自治体に義務づけ、子どもの権利の広報・啓発、教育・学習・研修等の推進を図っています。また、子供向けの広報も重要で必要です。子供の学年や理解度に合わせてパンフレットを作成することはもちろん、子供の意見を聞き、子供と共にパンフレットを作成していくことも重要なプロセスです。
荒牧教授は、広報物の作成過程自体が条約学習や認識の向上につながるという位置づけが大切であると指摘しています。また、条約を単に分かりやすく伝えるというのではなく、子供たちが権利について気づき、考え、行動するような内容にすることが求められており、そのためにも行政機関が個別ではなく民間団体を含む関係者の英知を結集し、かつ子供と共につくっていくことが望まれる。少なくとも子供から事前に内容や配布方法などについて意見を聞くことが大切であると述べています。
また、広報は条例の制定過程においても可能です。条例の制定のための審議会等の委員を公募することで広報につなげられますし、学習会や集会、ワークショップの開催の呼びかけやパブリックコメントの実施も重要な広報活動となり得ます。
制定過程それ自体を公開していくことも可能です。あらゆる機会を通じて、子ども条例や子どもの権利条約、子どもの権利について広報を進めていくことができます。条例を制定するのであれば、制定過程から広報を進めるべきであるし、条例を制定しないのではあれば、子どもの権利条約についての広報を進めることが求められています。子どもの権利または子どもの権利条約の広報についての市のお考えをお聞かせください。
○大須賀林副議長 会議時間の延長について申し上げます。
会議終了の時間が近づいておりますが、本日の会議時間は、議事の都合によりあらかじめこれを延長いたします。
健康福祉部長。
◎宮瀬光博健康福祉部長 子ども条例につきましては、今後、第3期蒲郡市子ども・子育て支援事業計画の策定を進めていく中で具体的に考えていくことになります。子どもの権利に関する広報の掲載、活用の仕方につきましても現時点では未定ではございますが、いただきました意見を参考にして考えていきたいと思います。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 御参考までに世界子どもの日という日があります。いつか御存じでしょうか。11月20日が世界子どもの日です。世界の子供たちの相互理解と福祉の向上を目的として1954年に国連によって制定されましたが、1959年の11月20日には子どもの権利宣言が採択され、1989年の11月20日には子どもの権利条約が採択されており、子どもの権利の歴史を語る上では欠かせない、大変重要な日と位置づけられています。現在でも世界中で子どもの権利のためのイベントが開催されている日でもあります。
日本国内においては、神奈川県川崎市や東京都中野区、北海道札幌市や岐阜県多治見市において、この11月20日を子どもの権利の日と定め、広報・啓発に取り組んでいます。蒲郡市においても一考に値すると思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います。
次に、子どもオンブズパーソンについてです。
子どもオンブズパーソンとは、子供の利益、権利の擁護や促進を目的とする独立した公的な第三者機関です。国連の子どもの権利委員会も設置を推奨しており、子どもコミッショナーなど他の名称で呼ばれることもあります。吉永省三千里金蘭大学名誉教授によると、子どもオンブズパーソンの特質は3点あり、まず、子供に関わる専門性を有し、子供の最善の利益のみに関心を持って、その実現のために、まず子供の話に耳を傾けること、次に、当事者の外部に位置するとともに、一般行政権から独立して職務を遂行すること、3点目に、問題の打開や解決に必要な調査権や勧告権、公表権など、公的に付与された権能を用いて子供を擁護・代弁し、公的良心を喚起して子供を支援することで、その上で、子どもの権利に関わるモニタリング、個別の救済、制度改善の提言、さらには教育・啓発を役割として担っています。
子どもオンブズパーソンは、既に兵庫県川崎町や岐阜県岐南町、神奈川県川崎市などで設置されています。また、子どもの権利擁護や救済に焦点を当てた子どもの権利擁護委員という形ではさらに多くの自治体で設置されており、県内でも豊田市や岩倉市、日進市、幸田町で実例がございます。
子どもオンブズパーソンは、子ども条例を制定し、実際に実効性のある条例として機能させていくためには欠かせない制度であると考えます。また、子ども条例がなくても、子供の最善の利益を実現するためには必要な制度であると考えます。子どもオンブズパーソンについて、現時点での市のお考えをお聞かせください。
○大須賀林副議長 健康福祉部長。
◎宮瀬光博健康福祉部長 子どもオンブズパーソンですけれども、子ども条例と併せて、第3期蒲郡市子ども・子育て支援事業計画の策定を進めていく中で考えてまいりたいと思っています。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 次に、情報公開についてです。
神奈川県川崎市の子ども条例「川崎市子どもの権利に関する条例」においては、子供や地域住民に対する情報公開や説明責任に関する規定も盛り込まれています。情報公開については、学校などにおける子供本人に関する文書、内申書や自己報告書などの文書についてですが、具体的には条例上、対象となる文書が子供の最善の利益を損なわない限りにおいて、その子供本人に提示されるとされ、文書の作成にあたっても、子供本人またはその親等の意見を求める等の公正な文書の作成に対する配慮がなされなければならないと規定されています。
神奈川県川崎市の場合は、もともと公害をめぐる問題で住民運動が活発であったこともあり、1972年(昭和47年)には公害防止条例が、1976年(昭和51)には環境アセスメント条例が制定されるなど、国の法律の動きに先駆けて先進的な取組が実現してきました。情報公開条例についても1984年(昭和59年)に制定されており、これは国の法律よりも15年以上も早い動きです。早い段階から行政への市民の参加が進んでいる中で、子ども条例にも情報公開の規定が盛り込まれていると考えられますが、それだけ情報公開が市民にとって重要であり、重視されてきたということの証左でもあるとも思います。また、子供や親、地域の住民に対して、学校や児童館など、施設の運営について定期的に説明を行い、話し合う場を設けることが定められています。
蒲郡市の学校運営協議会においては、子供たちは協議会のメンバーには入っていませんし、児童館に至っては、その運営を話し合う場すら設けられていません。いずれもより開かれた地域づくりのため、また、子供自身が子どもの権利をより身近な場、身近な機会で確保・行使できるための条件を整えるための規定であると考えることができます。
そこでお伺いします。学校などにおける子供本人に関する文書の情報公開はどうなっているか。また、現状市内の学校でも設置が始まっている学校運営協議会においては子供たちが参加していないと思いますが、それはなぜか。また、児童館の運営について話し合う場がないのはなぜか。それぞれお考えをお聞かせいただければと思います。
○大須賀林副議長 教育長。
◎壁谷幹朗教育長 初めに、教育委員会のほうから答弁をさせていただきます。
学校は、児童生徒及び保護者との信頼関係によって成り立っています。したがって、学校において起きたトラブルやけが等については口頭で丁寧に説明をし、御理解いただいている状況にあります。また、学習成績についても、問合せがあれば根拠を示し、説明責任を果たしています。中学校の進路決定に至る過程では、何度も生徒一人一人と個別面談を行い様々な合意形成をしています。その後、三者面談を開き、保護者の方にも御理解いただいた上で調査書や推薦書を作成しています。卒業後に次の進学先に送られる指導要録についても、校務支援ソフト導入時に通知表の表記がそのまま転記されるようにシステム化をしております。今後も教育委員会としましては、口頭による丁寧な説明と合意形成によって対応していくよう、各学校へは周知したいと考えています。また、学習成績や進路に関わる書類作成についても、これまでと同様に、丁寧な対応に心がけていくよう指導・助言をしてまいります。
最後に、学校運営協議会への児童生徒の参加については、現時点では行っていません。今年度から始まったばかりの中学校区が多く、各協議会が目指す子供の姿を検討している状況にあります。ただ昨年度から始まっています西浦地区では、小中学校の新建設の合築に向けワークショップに中学生が参加をし、地域の方と共に新しい学校の在り方について意見交流をしています。今後、正式に小中学生を学校運営協議会委員にするかどうかの議論は必要になると思いますが、小中学生の意見を聞く機会は確実に増えていくと考えます。
小中学生はもちろん、保護者や地域の皆さんの意見を反映させながら、学校運営協議会が地域の拠点となり、地域の様々な課題を解決していくことで、よりよい地域づくり、まちづくりを推進できたらと願っております。
以上です。
○大須賀林副議長 健康福祉部長。
◎宮瀬光博健康福祉部長 私のほうからは児童館の運営について答弁をいたします。
児童館の運営については、厚生労働省から児童館のガイドラインが通知されており、毎年、蒲郡市版の児童館基本的運営を作成しております。児童館の運営について話し合う場という点では、蒲郡市版の児童館基本的運営において子供が意見を述べる場の提供という見出しを置き、児童館の活動や地域の行事に子供が参加して自由に意見を述べることができることとなっております。
これを受けて一例を申し上げますと、昨年度、ちゅうぶ児童館では児童館夏祭りの企画を子供たちにつくってもらいました。児童クラブの3年生から6年生の子供たちが幾つかのグループをつくり、意見を出し合いました。当初はお化け屋敷をしたいという意見が多かったのですが、小さな子が怖がってしまうという意見も出て、何度も話合いを行った結果、夏のハロウィンというテーマで、お化けを題材にした様々な遊びを用意することに決まりました。準備も全て子供たちで行いました。児童館職員が行ったことは、子供たちの思いがかなうように少しだけフォローしたことと場所の提供をしたことだけでございました。夏祭りは大変盛況のうちに行われまして、今年度も企画する予定だと聞いております。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 学校については子供たちが毎日通う施設ですし、子供たちのための施設でありますので、子供たちがその運営に関わることは、私はシンプルに当たり前だと思いますので、意見を聞くということはもちろん、協議会に参加していくということも当然の流れではないかと思います。
また、児童館の運営については大変すばらしい事例を御紹介いただきました。まさに権利基盤型アプローチによって子どもの権利を具現化し子供の参加を実現した、さらに子供たちの意見も聞いて実際にイベントを実施したということで、子どもの権利の実践のお手元とも言うべきすばらしい内容であると思います。こういう事例が市内の全ての児童館で出てくるようになると本当にすばらしいと思いますし、そういう姿を目指していくべきだと強く感じました。ぜひちゅうぶ児童館にとどめず、ほかの児童館での実践も期待したいと思います。
さて、日本教育法学会の子どもの権利条約研究特別委員会が子どもの権利条例の要綱案を公表しております。この要綱案は、日本において子どもの権利条約の批准手続が進められていた1993年から同特別委員会によって研究・検討が始められ、1998年に子どもの権利基本法の要綱案とともに公表されたものです。
東京経済大学現代法学部の野村武司教授の解説によれば、この要綱案では、子どもの権利を保障する自治体による宣言に始まり、施策を推進する基本原則と基本計画、さらには市の組織編成についても規定され、また、運営協議会、運営審議会を設置することで条例の推進について外部評価するシステムも盛り込まれています。また、子供が関わる場の施設の設置や運営の在り方が子どもの権利保障に密接に関わるという観点から、子ども施策が実施される場や施設を子ども施設として提議づけ、設置と運営に係る規定を定めています。
具体的な子ども施設として、児童館、学校や公園をはじめ、市民病院や保健センターなど保健・医療に関わる施設、博物館や科学館など社会教育の施設など、およそ子供が関わる公の施設全てを対象とされており、適正な設置や配置のみならず、施設利用の原則も定めています。また、管理や運営に子供が参加することも定められています。さらに子供の意見表明や参加の権利について明記されるとともに、プライバシー権や情報公開の権利についても定められています。子どもの権利に関する広報と普及、さらには子どもオンブズパーソンに関する規定も盛り込まれています。
本日私から申し上げた論点や議論は、いずれもこの要綱案の内容に合致するものです。蒲郡市においても、子ども条例を制定する際の参考になると思いますので、ぜひ一度御確認をいただきたいと思います。付け加えるとすれば、蒲郡市の子供についての実態調査を定期的に実施すること、また、他の多くの子ども条例で見られるように、前書きの文、前文を盛り込んで、蒲郡市における子ども施策の目指すべき方向性や理念を高らかに宣言していただきたいと思います。
これまで様々な点にわたって子ども条例をめぐる論点について問題提起をいたしましたが、現状、子ども条例に対してどのようにお考えでしょうか。蒲郡市において子ども条例を制定するお考えはあるかどうかお伺いします。
○大須賀林副議長 健康福祉部長。
◎宮瀬光博健康福祉部長 令和5年度と令和6年度の2年度間において、次期計画である第3期蒲郡市子ども・子育て支援事業計画の策定を進めてまいります。先ほどの答弁のとおり、子ども条例については計画策定を進めていく中で考えてまいりたいと思っておりますが、先ほど御披瀝いただきましたように、日本教育法学会の子どもの権利基本条例の要綱案、こちらも参考にさせていただきたいと考えております。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 続いて、(3)こども基本法への対応について、お伺いします。
昨年、こども基本法が公布されました。こども基本法の第1条には、日本国憲法及び子どもの権利条約の精神にのっとり、全てのこどもが将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指し、こども政策を総合的に推進するという目的が掲げられています。
同法の第3条には基本理念が定められており、特に3条の1号から4号については、子どもの権利条約の4つの一般原則の趣旨を踏まえた内容が規定されています。
また、こどもまんなかをスローガンとし、子供、若者がぶつかる様々な課題を解決し、大人が中心になってつくってきた社会をこどもまんなか社会へつくり変えていくための司令塔としてこども家庭庁が設置されました。こども基本法の制定とこども家庭庁の設置によって、これまでに進められてきた様々な子供に関する施策の共通の基盤としての基本理念や基本事項を明らかにするとともに、子ども施策を社会全体で総合的かつ強力に実施していくこととされています。
そこでお伺いします。こども基本法の施行、こども家庭庁の設置に伴い、市として対応しなければならないことはあるでしょうか。また、対応する予定があることなどはあるでしょうか、お伺いします。
○大須賀林副議長 健康福祉部長。
◎宮瀬光博健康福祉部長 こども基本法においては、国が策定するこども大綱、県のこども計画に基づいて市はこども計画を定めるように努めることになっております。なお、市こども計画の策定は努力義務でありますが、国のこども大綱、県のこども計画に基づいて策定されるものです。現時点では国のこども大綱がまだ定められていないため、市のこども計画の策定をするための事前情報が少ないのが現状でございます。こども計画を今後どのように考えていくべきなのか、策定をするにしても時期はいつとすべきなのか、どのように市民や子どもの参加を求めていくのか、今後の課題となるものでございますので、現時点ではお答えしかねる状況でございます。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 計画の策定について、もう少し詳しくお伺いします。
これまでも国においては少子化社会対策大綱や子供・若者育成支援推進大綱、子供の貧困対策に関する大綱がそれぞれ別に策定されてきましたが、今回、こども基本法の施行に伴ってこども大綱が策定されることから、今後はこのこども大綱に一元化されることとなっています。既に蒲郡市においても子供に関する行政計画として蒲郡市子ども・子育て支援事業計画が進められており、現在は第2期の計画期間内にあります。現状の予定では、これから第3期の計画の策定に着手していくこととなると思います。
現状示されている国の方針では、既にある子ども政策に関する計画について、新しく策定するこども計画と一体化して作成することができるとされております。することができるということですので、一体化してもよいし、しなくてもよいと理解することができます。子供に関する内容ということで、近接する分野、似たような分野の施策をそれぞれが対象とする可能性が高いことから、子ども施策に関する計画を一体化することで、統一的な観点から政策が実施できるようになること、市民にとっても分かりやすい計画となること、事務負担も軽減されることなど、一体化する場合のメリットも国から示されております。ただし、一体化するとなると、蒲郡市においては既に進められている計画がある中でどのように調整を図るのか、どのように進めていくのか、また内容をどうするのかなどを検討しなければならない点も多いと感じます。
このような状況の中で、蒲郡市でこども計画を策定することについて、特に現状の蒲郡市子ども・子育て支援事業計画と一体化して策定するのかどうか、現在の市のお考えをお聞かせください。
○大須賀林副議長 健康福祉部長。
◎宮瀬光博健康福祉部長 こども基本法第10条第5項に、市町村は、子ども・子育て支援計画と市のこども計画は一体的に作成することも可能としているため、一体的に作成することになると、国のこども大綱、県こども計画はいまだに策定されていない中、非常にタイトなスケジュールになることが予想されます。まずは国の大綱がどのようなものになっていくのか、予測も立てながら一体化については考えてまいりたいと思っています。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 こども計画を策定するのであれば、こども計画も市の計画ですので、進捗の管理をするだけでなく、施策の評価や検証も不可欠です。山梨学院大学法学部の荒牧重人教授は、子ども施策の評価における重要な点は、子ども施策が子育てや子供の育ちにどのくらい届いているかという視点であると述べています。特に子ども施策の多くは権利保障に関わるので、評価の視点や方法に子どもの権利を含めることが重要であり、その効果として予算や人の効率化、事業の改善、説明責任の向上、職員の意識改革などにとどまらず、子どもの権利保障にどこまで貢献したかという視点を位置づけることが不可欠になっていると指摘しています。
例えば、神奈川県川崎市では、条例に基づく第三者機関として子どもの権利委員会を設置し、子ども施策に関する検証と評価を担っています。具体的には、委員会が子供の実態調査を行うとともに、行政からも自己評価の提出を求め、その上で、行政の担当と市民や子供、NPOなどとの対話を行います。その結果を踏まえて委員会で審議し、委員会が市長へ答申します。答申を受けた市は講ずる措置を検討し、結果について委員会に報告するとともに市民に公表します。この一連のプロセスを子ども施策の検証として位置づけています。行政の計画では一般的な数値による達成度合の評価ではなく、また、第三者による一方的な評価でもなく、行政の職員さんと市民と子供たちが対等なパートナーという立場から、対話を通じて成果や課題を見出して共有するという手法です。
荒牧教授は、この検証のプロセスでは、住民、子供の参加が重要である。行政の自己評価のみならず、子供をはじめとする住民の評価も含めて検証することが求められていると指摘しています。特に、子供は行政からすると専ら施策の対象と位置づけられますが、子どもの権利条約や子どもの権利条例で示されているように、権利の主体であって、子ども施策に関わって子どもの権利がどこまで保障されているのかについて、行政の自己評価のみならず、子供をはじめとする住民の評価も含めて検証することが求められていると述べています。
蒲郡市におけるこども計画についても、ぜひこうした検証の仕組みを取り入れるべきであると考えますが、現時点での市のお考えをお聞かせください。
○大須賀林副議長 健康福祉部長。
◎宮瀬光博健康福祉部長 計画については、行政の自己評価のみならず、子供をはじめとする住民からの評価も大切なものであると考えております。
検証の仕組みについては、計画策定の際に考えていくべき課題であると認識しております。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 市役所の組織の在り方についても検討の必要があると感じます。蒲郡市においても市役所内の様々な部署が子供に関わる施策を担当し、また実施されていると思いますが、子育て世代の間で特に話題となるのは、子育てに関する様々な部署や担当がいろいろなところに分散しているという問題です。もともとこども家庭庁も、各省庁に分散した子育て政策を一元化することを目指して、各省庁の縦割りを打破することを主眼として設置されました。こども基本法の施行や子ども条例の制定を機に、市役所の組織面においても、子育て世代がより便利に子育て施策を利用できるような配慮が必要であると思います。
現状でも保健センターに行ったり、市役所本庁舎に行ったり、手続によって電話したり相談したりする先も別で、要件によって様々な担当に分かれていて、別々の場所に行かなければならない、いろいろなところに電話しないといけないなど様々な不便を強いていると思います。特に場所が別、建物が別だと非常に不便です。せめて1つの場所で手続や相談、要件が済むようにできないでしょうか。
ここで重要なのは、大人1人が出かけていくのではないということです。ベビーカーを押して出かけいく、小さな子供を抱えながら出かけていく。当然泣きだすこともあるし、おむつを換えないといけないときもある。お漏らしをするかもしれないし、そのための荷物をいつもたくさん持っていかなければいけない、そういう状況の中でいろいろな場所に出かけさせる。それでいいのかどうかということです。
例えば、私も何度も乳幼児健診に出かけ、周りの親御さんたちからもいろいろなお話をお伺いしてきました。確かに多くの方は自家用車でいらっしゃいますが、十数人から数十人の参加者がいらっしゃる中で、やはり中には自分の車がなくて誰かに送ってきてもらったとか、バス停からベビーカーを押してきた、駅からベビーカーを押してきたという方が必ずいらっしゃいます。
保健センターのバス停はどこだか御存じでしょうか。保健センターにはバス停はありません。一番最寄りのバス停は名鉄バスの厚生館病院前というバス停です。そこから坂を上がって、信号を渡って、橋を渡って、建物を回って保健センターまでたどり着きます。物すごく遠くて不便であるとまでは言いませんが、小さな子供を抱えて、ベビーカーを押して歩かせる距離だろうか。浜町内は大型車の通行も多いですし、危険はないだろうか。不安ばかりが募る道のりです。少なくとも子育てに関する部署が1か所に集約されていること、1か所で全ての要件が済むこと。それは書類の提出も、手続も、講座も、健診も、子供の遊び場も、全て1か所に行けば完了することが望ましいです。望ましいというか、私はもはやこれは必要条件であると思います。
そして、やはり最も望ましいのは、公共交通機関でのアクセスがよくて駐車場もあるということです。バス停の近く、駅の近くで、かつ車でも行ける施設ということです。例えば、市民病院に集約するということも一案でしょうし、市役所の中にそのようなスペースがあればそれでもよいでしょう。あるいは蒲郡の駅前に新しく造る施設の中に子育て関連の部署と機能を持ってきて集約化するということもよいでしょう。そして恐らくそれが一番望ましい形です。
例えば、兵庫県明石市では、明石駅前の民間のビルに子育てに関する市の施設や担当部署が集約されています。具体的には、地下2階、地上6階のビルで、地下は駐車場、1階から3階までは商業施設で、レストランや居酒屋など飲食店、喫茶店、書店、クリニック、不動産屋、予備校やコンビニなどが入っています。そして、4階、5階、6階が市の施設になっています。4階には図書館、5階には子育て支援センターがあり、親子で入れる室内遊び場や中高生の活動スペース、一時保育ルームや子供図書室、多目的ルーム、ファミリーサポートセンター、そして、子育て支援課の事務スペースもあります。6階はこども健康センターで乳幼児健診ができます。子育て世代包括支援センターもあります。また、同じ6階には市の総合窓口があり、戸籍の届出や各種証明証の発行、市税・保険料等の支払い、国民健康保険、国民年金や介護保険、障害福祉などの窓口も設置されています。
ここに来れば、例えば、乳幼児健診も受けることができるし育児の講座を受けることもできる、子供を遊ばせることもできる、子育ての相談もできる、子供も預けられる、書類提出等の手続もできるという状況で、まさに明石の駅前で子育てに関する要件が全て済ませられる、そういう場所になっています。わざわざ市役所やほかの幾つもの施設に出かけていくことなく、1か所で全て要件が済むようになっています。私も見に行きましたが、建物のスペース自体はそこまで実際広くはないですが、とてもよく考えられている、とてもよく工夫されている、子育て世代の視点、子育て世代の意見がよく生かされている、そのような施設になっていることを強く実感いたしました。
明石市は人口30万人の中核市ですから、確かに蒲郡とは規模が違います。ふだんから駅前の人通りは多いですし、バスも電車もひっきりなしにやってきますが、いつの時間もベビーカーを押している親子がこのビルの中に入っていく姿を見ることができます。市民にもとてもよく利用されている、市民にこの施設がすごく定着しているということを実感いたしました。今日は本題ではありませんので詳しくは立ち入りませんが、この施設の4階はワンフロアが全て図書館になっていますので、蒲郡市における新しい施設の建設にあたっては大いに参考になると思います。駅前に新しく公共施設を造っていく、その中に子育てに関する施設や部署を集約していくということはぜひ検討すべきであると感じました。
ここでお伺いします。こども基本法の施行、こども家庭庁の設置に伴い機構改革や組織改革も求められているでしょうか。その必要性はないのでしょうか。また、子育てに関する部署と機能を集約することについてどうお考えでしょうか。
○大須賀林副議長 健康福祉部長。
◎宮瀬光博健康福祉部長 現在、こども家庭庁創設に伴う市の今後の組織体制の検討を行っており、現在、関連各課において課題となっている事務や今後整理していかなければならない事務の洗い出しを行っているところであります。
今後の組織体制につきましては、国等の動向や制度整理なども踏まえ判断していく考えです。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 ぜひ親御さんの意見、子供たちの意見をしっかりと聞く場をつくっていただき、検討をお願いしたいと思います。
もう一点は情報提供の体制についてです。
先ほど指摘した組織の在り方とも関連しますが、子ども施策に関する情報発信、情報提供についても、担当部署の縦割りがそのまま市のホームページの構成にも反映されています。例えば、保育料の無償化、乳幼児健診、児童クラブについては、いずれも子育てにおいて非常に重要な施策ですが、全て担当課が異なるため別々のページに記載されており、それぞれの施策を所管する課のホームページに行かないと情報を得ることができません。そして、各課のページにはそれぞれの課が所管する施策しか紹介がなく、ほかの課のページにリンクもありませんので、他の担当の子育て施策をたどっていくこともできない状況です。
例えば、健康推進課のページだけを見た市民の皆さんは、蒲郡市の子育て施策は乳幼児向けしか存在しないとお感じになる可能性がとても高いと思います。実際には切れ目のない子育て施策が展開されていることを私自身は理解していますが、一般の市民の皆さんはどうでしょうか。このような状況では市の施策が適切に伝わるでしょうか、疑問です。たくさんある市の子育て施策について、市民の皆さんはそれぞれの施策の担当がどの部署かということまで把握されていないと思いますので、子育ての情報を探しているのになぜ見つからないのかという結果につながってしまうのではないかと感じます。現状は信じられないほど分かりにくい。ここまで縦割りを貫く意味があるだろうかと疑問を禁じ得ません。
こうした不便を解消するために、様々な所管にまたがる子育て施策に関する情報を一元化して、蒲郡市の子育てポータルサイトのような形で、1つのページ、1つのサイトにまとめることができないか、集約することができないかと思います。実際に県内でも、例えば豊橋市や北名古屋市では子育てのポータルサイトを開設しています。ぜひお調べいただければと思いますが、どちらの市のサイトも私のイメージにとても近いもので、目的別、年齢別に情報が整理されており、もちろん担当部署にかかわらず、つまり母子保健に関する内容も、児童福祉に関する内容も、助成金や手当に関する内容も、どれも全て網羅して紹介されております。大変分かりやすいと思います。ぜひ参考にしていただき、蒲郡市でも子育てに関する情報を提供するポータルサイトを開設していただきたいと思います。
今後、子ども条例を制定したり、こども計画を策定したり、部署横断的な取組がますます必要になってくると思います。情報発信の在り方を変えていくことはこれからも必要になってくると考えられますのでぜひ取り組んでいただきたいと思いますが、お考えをお聞かせください。
○大須賀林副議長 健康福祉部長。
◎宮瀬光博健康福祉部長 現在、全庁的に情報提供を分かりやすく発信するためにLINE機能を利用した情報提供の準備をしております。まずは市民にLINE登録しいただき、LINE画面で例えば子育てのセグメントを選択すると、さらに細分化された年齢別のセグメントに分かれるように構成をし、必要な情報のボタンを選択することによって関係ホームページに移行するといった仕組みを現在考えており、情報発信の取組として検討しています。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 LINEでのセグメント配信の取組を強化していくとのことで、確かに重要であると思いますが、本当にそれで大丈夫ですかという疑念は拭えません。先ほども少し触れたとおり、子育て支援の施策は年齢によって所管が分かれているわけではありませんし、何歳の子供であってもいろいろな担当のいろいろな施策が対象となっています。きちんと必要な情報が出されるのか、スムーズにいくのか不安が残ります。また、私の提案は、あくまで子育てのポータルサイトの開設です。LINEでの対応とは別個のもので、解決策としても異質のものであると思います。LINEでの対応を充実させることはとてもよいことだと思いますが、ポータルサイトを開設することは政策としても何ら矛盾もありませんし、両方できればなおよいということでもあると思いますので、改めて検討をお願いしておきたいと思います。
最後に、今後の予定についてお伺いします。
本日も子ども条例の制定、その具体的な内容について、こども計画の策定、また組織の在り方や情報発信の在り方など様々な問題提起をいたしました。どこからどう手をつけていくか、どのように進めていくか、子ども施策を取り巻く課題の今後の予定について、お考えをお聞かせください。
○大須賀林副議長 健康福祉部長。
◎宮瀬光博健康福祉部長 先ほどまでの答弁のまとめとなりますが、令和7年度から開始される第3期蒲郡市子ども・子育て支援事業計画の策定のために、令和5年度は情報収集、令和6年度は策定という流れになります。その流れの中で市のこども計画も一体的に策定するのか、子ども条例は制定するのか、制定するならいつをめどに、そして、どのようにして市民や子供の意見を聞いていくのか、様々な課題を解決していくことで進めていきたいと考えています。
以上です。
○大須賀林副議長 藤田裕喜議員。
◆藤田裕喜議員 今後の子育て施策を考えるにあたっては、やはり蒲郡ならではの個性を盛り込む、蒲郡だからこそ実現できる子育て施策の在り方をしっかりと考えていく必要があると思います。具体的には、例えば海と山に囲まれた豊かな自然環境を生かすこと、それはほかの地域ではなかなか経験できないような自然体験の機会を提供することや、まちの規模が大きくないからこそできる、お互いの顔の見える子育て支援、距離感の近い子育て支援をもっともっと充実させていくことです。その上で、子供の参加や子供の意見が尊重されることで、子供自身が自己肯定感を育むことにつながっていく。そうして育った子たちは、蒲郡に生まれてよかった、蒲郡で育ってよかった、そう感じてもらえるようになる。そして、たとえ一旦蒲郡を出たとしても、いずれ戻ってきたいと思うようになると私は確信しています。
目先の助成金や一時的な補助金にとらわれることなく、また短期的な人口の数字の上下に拘泥するのでもなく、こうした長期的な観点からこうした施策を考えていただきたいと思います。
私からは、今回、問題提起ということで、子ども条例をめぐる様々な論点を御紹介するとともに、お考えをお伺いいたしました。ぜひとも本日の議論を参考にしていただき、蒲郡市ならではの子ども条例の制定に向けて検討を進めていただきたいと思います。
以上で終わります。ありがとうございました。