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視察報告:長崎県対馬市における「移住・定住促進策」について(2019年11月)

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長崎県対馬市での視察では、「海洋ごみ対策」「移住・定住促進策」について、調査いたしました。今回はこのうち「移住・定住促進策」について、その概要を報告します。(2019年12月の蒲郡市議会定例会において、本視察・調査の内容に基づいて、一般質問を行いました。本報告も、議会質問の内容に沿っています。)

● 移住・定住促進策について(長崎県対馬市への視察をふまえて)

(1)対馬市の現状

対馬市の人口は、現在約3万人。ピークは昭和35年で、7万人に迫る勢いでした。当時と現在と世帯数はあまり変化がないことから、対馬市では、若い世代の人口流出が特に著しいということがわかっています。実際に、高校進学の際に3割が、大学進学に際しては9割が島の外に出て行ってしまっているとのことです。

私も実際に行ってみて感じましたが、福岡の博多港から、ジェットフォイルという高速船を使っても2時間あまりかかります。新幹線で気軽に東京や大阪を行き来できる蒲郡とは、だいぶ環境が違うことを実感しました。対馬の若い人たちにとっても、島を出ていくという決断、あるいは、島に戻るという決断は、例えば私自身が経験したような心持ちとは、おそらくだいぶ異なっているのではないか、相当に重いものがあるのではないかと感じました。人口流出、人口減少は日本全国のどこの市町村でも課題ですが、こうした観点も踏まえて考えると、さらに厳しい現実を目の当たりにしたような気がいたしました。

(対馬へは博多港から船に乗ります)

そこで、対馬市としては、人口減少を食い止めることは困難だが、少しでその減少度合いを緩和していく、現状維持を目指していく、ということが主眼になっています。

(2)具体的な移住・定住促進策について

具体的な施策としては、大きく2つのポイントがあります。ひとつは、住むところを提供すること、もうひとつは、経済的に支援をすることです。

住むところの提供としては、空き家バンクの制度がある他、空き家所有者向けの空き家を改修のための補助金があります。また、お試し住居制度として、移住希望者に対して、光熱費のみの負担で、住宅を貸し出す制度もあります。

さらに、移住者が家を探す間、最大で2年間、定住支援住宅として市が住居を提供する仕組みや、移住を前提とした下見をするための交通費を補助する制度もあります。

経済的支援については、引っ越し費用の補助や家賃補助、初期費用の補助があります。また、子育て世帯への補助、結婚して対馬に移住したカップルへの補助、奨学金の返済支援の他、島内の企業に就職する場合の補助金もあります。年齢制限などの条件はあるものの、極めて充実していると感じました。

対馬市ではもともと、空き家バンクは空き家バンクの担当者が、移住政策は移住政策の担当者が、それぞれ独立した別の部署で担当をしていました。しかしこれを「しまぐらし応援室」としてセットにして、対外的にアピールするようになり、結果として、移住者を増やすことができた、という経緯があります。

(しまぐらし応援室)

対馬市の移住・定住に関する施策の中身については、すでに他の市町村も取り組んでいるような政策もあり、そこまで特別で特殊で目新しいものは少ないかなと思うのですが、そうした施策でも、対外的な見せ方、アピールの仕方次第で、外の人に対して、充実しているように感じてもらえる、新しさを感じてもらうことができている、と思います。

(3)施策の成果

このような様々な政策が功を奏してか、最近では年間100件近くの移住に結びついているということです。

とりわけ特筆すべき点は、100件近くの移住された方々について、個別に聞き取り調査を行っているという点です。どのような事情で対馬に移住されてきたのか、どこから来たか、年代、どのような家族構成か、どのような職業か、現在はどこに住んでいるか、移住に関する情報はどこで得たかなど、かなり細かいところまで聞いています。

このような聞き取りの結果、対馬では、IターンよりもUターンが多いこと、20代・30代が多いこと、サービス業や公務員が多いこと、無職の人も多いこと、単身者が半数近いこと、移住者に人気の地区があることなど、感覚ではなく数字で把握することができています。こうして把握したニーズを実際の政策にも反映させることができるので、よりターゲットを絞った政策立案を実現できています。

(4)差別化のポイント

対馬市も差別化については、かなり苦心されているようで、テレビなどによく出る知名度のある有名な島や、都市部により近い島には、なかなかかなわないという状況のようです。

対馬市として、独自性をPRできるのは島の歴史で、古くから、朝鮮半島との交流の歴史があり、昔から「国境の島」ですので、大なり小なり、歴史に関心のある人が、興味を持ってくれるという場合が多いとのことでした。「田舎での暮らし」や「離島での暮らし」、また、「海のある暮らし」に興味を持ってくれる人は少なくないが、そこから対馬に絞り込んでいくこと、対馬を選んでいただくところが、なかなか難しいようです。

(5)蒲郡市の現状について

蒲郡市においては、移住体験ツアーの実施、同居・近居促進補助金や、定期借地権付きの住宅地分譲、空き家バンクの開設に加え、移住フェアや住宅展示場でのPRなど、様々な移住・定住促進策を進めていますが、実際にどのくらいの数の方が、これら施策の成果として、蒲郡に移住されてきたかは把握できていない現状です。転入者の背景や事情についても、簡単なアンケートで月に100〜200件を把握しているのみで、大まかな傾向(20代までの女性は結婚での転入が多い、30歳以降は住宅購入がきっかけの転入が多いなど)しかわかっていません。

アンケートの項目をさらに細かくすることが必要で、そうすることで、よりターゲットを明確にした移住・定住促進策の検討が可能になると思います。

また、そもそも蒲郡というまちは、どういう家族構成の人たちに特にお勧めなのか、それは子育て世帯なのか、現役を引退した世帯なのか、あるいはどういう職業、どういう仕事をしている人たちに向いているまちなのか、名古屋など都市部に通う人たちなのか、東三河など近隣で仕事をする人たちなのかなど、市の政策においては、移住してきてほしいターゲット層が必ずしも明確ではありません。移住を検討している方々の背景・事情によって魅力を感じるポイントも異なりますし、アピールする内容も変わってきます。ターゲット層が明確になっていれば、そのターゲット層に合わせたアピールの仕方がありますし、そうすることでより効果的にPRをすることができると思います。

特に、蒲郡市の周りの市町、東三河であれば、豊橋市や豊川市、西三河であれば刈谷市や安城市などには、現在、移住を促進する独自の施策がないという状況です。現状の蒲郡市もこれらの自治体と大差のない状況ですが、反対に、蒲郡市が現状以上に移住を促進する施策に取り組むことは、他市町との差別化をしやすいということでもあります。成果につながりやすく、今後の人口増加にもつなげられるのではないかと思います。新たな施策に取り組む余地は非常に大きいと言えるでしょう。

(6)まとめにかえて

私自身も、大学進学から地元の蒲郡を離れ、全国転勤のある会社に就職し、その後、さらに東京都内で転職し、そして、蒲郡に戻ってきたというUターン者です。私にとっては、東三河でも蒲郡以外の町に住むという選択肢はありませんでしたが、当然のことながら、他の方々には必ずしもそうではありません。

むしろ、移住者のみなさんからこの蒲郡市が選ばれる町なのだろうかと、大変不安に感じるところもあります。「住んでみて、意外に便利でよかった」という声は、大変多いのですが、住む前から、外から見て、蒲郡という街が便利で暮らしやすい、とは、なかなか感じていただけていないのではないか、と思います。

市の施策としては、まずはやはり現状を細かく把握すること、そして、差別化を意識するということが必要であると考えます。

(お世話になりました対馬市役所のみなさまに感謝・御礼を申し上げます。ありがとうございました。)

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